【レポート】ある調査をしてみた。Clusterにて。

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★初稿アップロード: 2021年12月15日 7:00
★微修正・追記: 2022年1月某日

この記事 is 何

この記事は、Cluster Creator Advent Calendar 15日目の投稿として書かせていただいているものです。

以下がそのカレンダーです。
皆さん様々な内容の投稿をされていて、多才で多彩な魑魅魍魎が集まっている (と勝手に思っている) Cluster Creatorのコミュニティ、凄まじ…!!!と感じています。すさまじ!

Cluster Creator Advent Calendar 2021 - Adventar
アバターやワールド制作テクニック、イベント運営のノウハウ、イベント参加や GAMEJAM の体験記、ワールド紹介などなど、cluster の制作に関することならなんでも OK な Advent Calendar です! 記事を投稿する場所は個人のブログでも ( でも、どこでも自由です。動画として、あるいはイベントやワ...

まだClusterの世界を知って1年足らずの自分がエントリーしていいものか…と怯えながら「えいや」でクリックしてしまった以上、読んでくださる方に何か持って帰れるようなものにせねば!と思っています。

この記事の概要

内容としては「Cluster内で研究の一端としてのテストや調査ができるかもしれない!」というものになるはずです。
そのつもりで書き始めてみます。

2021年、秋。以下のような事を実施しました。
これについて振り返る記事になるはずです。

かつて学生だった頃から現在に至るまで、分子や化学、科学に関係するものを扱っているうえでずっと引っかかっていた「これ (3D分子モデル) 結局どうやって描いたら見た人にウケるん?」という疑問に対して決着を付けたかった。

それともちろん「こういう手法について真面目に考えてみた結果が存在することが、いつかどこかの誰かにとって意味を持つかもしれない」という思い。

そして最後に「Cluster はじめ バーチャルSNS メタバースプラットフォームって、研究におけるテストや調査にすごく適しているのでは?」という思い付きの検証。

これらを原動力として、今回の調査の実施に至りました。

全体の流れとしては

  1. 着想、推敲
  2. 事前調査
  3. 方針決定
  4. サンプルを用意&ワールドを作成
  5. プレテスト
  6. 周知
  7. 実施
  8. 結果の集計、解析
  9. 発表

時間軸としては前後したり重なっていたりまだ終わっていなかったりするのですが、こんな感じだと思います。

この記事では、 4~7 について触れていくのが趣旨に合っているのではないかなと思っています。
実施に至るまでに考えたことや、振り返ってみて思う事について書いていくことにします。
今後、分野や目的は違えど、Cluster を使って何かしらのテストや調査を実施する方の助けとなったら嬉しいです。

詳細な研究内容とその最新の結果については、別途まとめたページを設けていますので、こちらを参照してください。新しいことがわかり次第、随時アップデートしていく予定です。
また、2021/12/18 に開催される バーチャル学会 にて成果を発表予定です。
Clusterで口頭にて内容紹介 → VRCHATにてポスター発表という流れらしいです。
当日15:00-15:30にはポスターの前に立っているので、興味がある方がいましたらお話しましょう。

調査の設計

大まかに何をしたかというと、以下のような様々な見た目の分子を設置したワールドを作って、それらの印象(好きな見た目かどうか、連想するオノマトペは何か、重たさはどのくらいだと思うか、など)を回答してもらう調査の実施です。

サンプルは3DモデリングソフトのBlenderにて作成し、外観の調整やテクスチャの付与はUnity上で行いました。

既に世の中にあるような3Dモデリングソフトを参考にしたり、パラメータを徐々に変更したり、印象の異なるテクスチャを選んで貼り付けたりしています。
(2Dの画像で見てもだいぶ印象が違いますね。3D、さらにHMDを被ってVRで眺めると「おぉ~~。ほほ~~。こっちはこんなのなんだね、、」とか気づいたら独り言を発しているほど印象が違って面白いですよ。)

これらを用いて調査を行いました。
サンプルやワールドの設計、回答方式などについて、現実世界での調査やテストではあまり直面しないようなことについて考える必要があったので、それらについて以下に羅列していきます。

はじめに、その前段となる空間自体の説明から入ります。

空間について

評価を行ったワールドは、Unityプロジェクト上で見るとこのような感じです。

ワイヤフレームで見るとこんな感じです。

横に果てしなく長いような設計になって(しまって)いることがわかると思います。

色々考えた結果、このようになりました。
その色々が以下に続きます。

ライティングについて

今回、物体の外観、特に凹凸情報まで含めたテクスチャリングの影響も考察したかったので、サンプルに対してどのように光が当たるかを厳密に規定する必要がありました。

諸々の事前調査により
・一般的にこのような外観の評価をする際、光はD65光源(Unityの3Dプロジェクト上では#FFFFFFの白色が相当するとしてよい)を用いる場合が多い事
・光の向きは、試料に向かって斜め上(法線に対して30~45°が多いよう)から差し込むように設定することが自然である事

がわかったので、その実装を目指しました。

実はこれが、ワールドがやけに横長になってしまった理由です。

サンプルに対する観測者の初期の向きを規定するために、テキストを空中に配置し、この状態で斜め上45°からDirectional light (Color: #FFFFFF, Intensity: 1.0)を照射しています。
すべてのサンプルに同じ角度から光が当たるようにすると、どうしても横長なワールドになってしまう、というのが悩みでした。

もちろん4行 × 5 列 などに配置することも検討しましたが、これは手前で評価している人の視界に別のサンプルや評価者が入ってしまうことを懸念し、ボツとなりました。

もっと空間的に上手に設計すれば、すべてを実現できそうなものでしたが、あとで述べるGoogle formの形式との兼ね合いもあり、今回は泣く泣く横長の形式で実施しました。

背景について

前項でも少し触れましたが、評価の際はサンプルのみが視界に入り、そのほかの余計な情報はできるだけ排除できるように設計することを心がけました。

具体的には常に視界に入ってしまう部屋をどう描画するかです。

これについては、部屋に適用しているマテリアルのシェーダーを Unlit/Colorに設定し、色をグレーにすることで限りなく影響を排除できたと考えています。

このように、どの角度でサンプルを眺めたときにも、床や壁の境界線が映り込まず、またサンプルや評価者の影も映らないので評価者の視界には基本的にはサンプルのみが移っている状況を実現できました。

また、今回はmetalicの値も変数として扱っていたので、環境光の映り込みも懸念しました。
つまり「あのUnityの」デフォルトスカイボックスが映り込むのはよくないと判断しました。そのほかのソフトウェアに応用しやすいように、環境光の影響は排除するため黒色を設定しました(以下、同じサンプルで環境光のみを変更した比較図)。

以上により、一般的なライティングとして、そのほかのソフトウェアや現実世界においても類似の実験について”他者が再現可能”な設計をなんとか達成することができました。

アバターについて

あとは、バーチャル メタバース社会において、評価者の外観上の特性における幅が大きすぎることも注意する点でした。
今回は、視点の高さや視界に入り込む要素の有無が結果に影響してきそうだったので、以下のボードをワールド入り口のアナウンス部に設置して、デフォルトのロボアバターでの参加を条件とすることとして対応しました。

回答の収集について

結果の回収については Google Form を用いました。

評価項目に当てはまるのは以下です。

これらをGoogle Formで20サンプル分、聞いていくという考えただけでも嫌になるような設計になってしまったことは評価者の皆さんに対して申し訳ないと思っている点です。

Formでは、初めに以下のような表記を行っています。

その後、参加者の情報(Cluster IDや、化学的なバックグラウンドがあるか、参加デバイスなど)を入力するセクションを経て、20サンプル分の回答に移る(1サンプル1セクション)、最後のセクションで今回の調査への感想等を回答する、という形式でした。

Google Formで行う上で、研究として問題になる可能性が大きかったのは、いま開いているセクションの必須項目を埋めなければ、それ以降のセクションに移れないことでした。

つまりサンプル1番から順番に回答することが原則になり、また評価中にセクションを戻ることも可能ではあるものの、実質的かなり手間取ってしまうので前半の回答と後半の回答での評価基準が一定となりにくいデータになってしまう懸念があったという事です。
また、すべての回答を終えるまでに長時間を要するので、終盤の数サンプルの回答については雑に流されてしまう可能性がある、などといった点も問題かもしれません。

いずれにしても、回答形式による不要なバイアスがかかってしまうことが避けられなかったのは、試験設計時に悩んだ点でした。
その他の要因も考慮した上で今回は Google Form がベストであると判断しましたが、今後もよりよいツールや回答方法を探したいものです。

(データの処理や解析の面への影響に関しては、どのような試験においてもバイアスはどこかで必ずかかるものなので、考えうるデータの特性を考慮したうえで結果を吟味できれば問題ないというのが僕個人としてのスタンスです。今回はその範囲では問題なしだと考えています。)

周知

さて、(ようやっと?)設計が終わりました。
しかし参加者がいないと話になりません。

半年ROMった(つもりでいた)ので、ここぞとばかりに Hello Cluster の告知枠で宣伝させていただきました。

緊張しすぎてバネを吐きまくった記憶があります。

その後、この記事の冒頭で引用したツイートを行い、評価イベント中なども数回呼びかけたり、知り合いの化学やってる数名にも声を掛けたりして、最終的には36名分の有効な回答を収集することができました、、、!!!

アンケートの最後で、どこでこの企画を知ったか質問したところ「ハロークラスター」と答えてくださっている方が何人もいて「告知してよかった……」と胸をなでおろしました。

実施

ということで、下の写真のような感じで、モノトーンな空間の中たくさんのロボアバターが分子を眺めているという、おそらくClusterが始まって以来初の謎空間が実現されました。
(そういう特殊な癖の人が集まる美術館かなにかみたいだなと思いました)

実施に当たっては、参加者同士のコミュニケーションにより個々の評価軸がずれてしまうことが懸念点でした。
これについてはワールドの入り口で以下の案内を行い、さらにイベント中は定期的にチャットで案内を送ってアナウンスしました。

また、評価空間に入る直前に以下のようなTipsも表示しました。

本当にたくさんの方が来てくださいました。
いつも一方的に見ているだけだった、思いもかけないような方々も来訪されていて喜ばしい限りでした。

加えて研究としてありがたかったのは以下にあるように、HMDで参加してくださった方が十分な数いたという事でした。

これは実は、ツイッターにて「VRで観察してくれる人が増えてほしい、お時間ありましたら、、、、」というようなポストをしてから増え始めたのを観測したので、本当に感謝しかありません。

実施において気を付けた点、かつ大変だった点は、常にワールドを”見張って”いなければいけないという点でした。
あからさまに回答スピードが速いような参加者がいないか、ロボアバターを着用しているのか、など、回答結果にコンタミを生じてしまいそうな評価者が存在するかどうかを確認し続ける必要があったのは、やや疲れました。

こうすればよかった

というように何とか実施をすることができた調査ですが、いざ終えてみると改めて課題だらけですね。

第一に考えるべきは、この単調なワールドでの評価による参加者の負担をどうにか軽減できないかという事です。

これについて、まずライティングの兼ね合いで横長で途方もなく見えるワールドの外観を変更できたらよかったと思っています。おそらく中央上空に点光源を設置して放射状にサンプルを設置すれば(アナログ時計のようなイメージ)、すべてのサンプルに同じように光が当たるという事が達成できそうです。さらに、個々のサンプルを壁で仕切ることで他のサンプルや評価者が視界に入ることも防げそうです。円状であれば、全体像もつかみやすく移動もスムーズだったのではないかと思います。
あるいは縦方向にワールドを伸ばしていってもよかったかもしれないと思いました。まだまだ可能性はたくさんありそうです。

また、ワールドの各所(5サンプル間隔くらい?)にワープポータルを設置しておくと、評価済みのサンプルと見比べやすくなったと感じています。

さらに自分に技術があれば、ストラックアウトのようなパネルが用意されていて、数字のかかれたボタンを押すと手元に評価したいサンプルが表示されるといったような、よりスマートかつ面白みのある評価体験もデザインできたかもしれないなあと、力及ばず悔しい思いもしているので、今後は少しでもマシな形で何か実施出来たらいいなと感じています。

今なら”乗り物機能”使えば色々解決できるのでは、とも思ったり…。

現状の Cluster に適した調査とは

振り返ると、今回の調査はかなりチャレンジングだったのではないかと感じています。
初期の検討であったためサンプルや設問数が多めだったこと(多めどころか限界ギリギリを攻めてしまいました)、回答ツールが限られていたことが要因だと思っています。本当にこれを快適に実施するには、まだまだ改善しなければいけない点、2021年時点では現実的に不可能な点があると感じました。

一方、いま Cluster で十分実施可能な調査もたくさんあると思っています。

例としてまず挙げられそうなのが、集団に向けて同時に問題を提示し、全員がその場で回答することで済むようなものです。
スクリーンに画像を表示し、その印象や評価値を1~4の選択肢で回答するような設計であれば、その場に平均値を取るのに十分な人数がいればアンケート機能で実施可能です。評価対象となるサンプルが多くても、企画運営次第で皆で楽しみながら実施できそうです。画像に対するアノテーション作業等が当てはまりそうで、実はこれもいつか実施してみたいなと密かに思っています。

その他だと、行動観察系の調査があり得そうだと感じています。参加者はただ用意された空間を各々の方法で楽しむだけ、実施者はその様子を観察するというようなもので、おそらくワールドを作っている方々は既にこのステップを踏みながらたくさん試行錯誤されているものだろうと思います。
スポーン地点からXメートルの位置に手に持てる林檎を置いておくと、ワールドの平均滞在時間がY秒増える、というモデルケースのようなものを作って、Xを変動させてYがどう影響するのかを観察してみても面白いかもしれないなと個人的には感じます。 (面白くないと感じる方ももちろんいると思うので、やるのかどうかはまた別の話だと思いますが…。)
僕には思いつきませんが、何というメッセージが書かれた看板が置いてあれば来訪者の再入場数が上がるのかとか、そういう仮説検証もできてしまうのかもしれません。メタバース上で過ごす人たちがどういう行動をとるのか(それが現実とどれほどかけ離れているのか)というのは興味深いなぁと感じます。(面白くないと感じる方ももちろんいると思うので、やるのかどうかはまた別の話だと思いますが…再。)

あとはもちろんインタビューのような定性的な調査、これは言わずもがな適していると思いますし、異を唱える人も少ないのではないかなとなんとなく感じます。オフラインの Face to Face と メタバース上での Face to Face、どちらの方が本音に近い回答が聞きだせるのでしょうか…(こういうのはどこかの研究として既にありそう)。

終わりに

ともあれCluster内で、今後個人的な研究として取り組んでいきたいことに関わる重要な調査を実施することができました。
そして、その時考えたことをここに記事としてまとめることができました。よかった。あとは解析を進めるだけ。

僕は調査会社の人間でもないですし、プロの目から見るともっといいやり方があるかもしれませんが、このようなガタガタな設計ではあるものの、なんかやってみたらやれちゃうという懐の深さというか、なんとかなっちゃう自由度が既にメタバース上にあるということは素晴らしいと思いました。メタバース、おめぇすげーよ。

ボロボロでも前例がなければ何も学べないと思うので、このレポート(?)を参考に、もっといい感じの調査をする人たちが表れてきたら、今回手を挙げて投稿してみた甲斐もあったような気がしてきそうです。僕が得た知見や至らなかった点、うまくいったかもしれない所などは、いつでもどなたにでも共有する心づもりですので、もし似たようなことを考えている方で気になる事などありましたら気兼ねなくお声掛けください。

最後に、調査やテストをする上で、もしこんな機能やギミックがあったら便利だろうなというのを書いてみたかったのですが、もう少し練ってから足します。

Cluster Creator Advent Calendar 参加してよかったです。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

謝辞

はじめに、今回の調査における種々の検討は、この企画に賛同し協力してくれたデザイナー、クリエイターであり共同研究者であるかまぼこ子さんとともに行いました。参加者へのお礼として連れていって頂いたハロウィン仕様のサイアバターも、かまぼこ子さん作です。この場を借りて改めてお礼させていただきます。ありがとうございました。

普段同じチームとして活動しているSciKaleidoのメンバーの二人も、主に解析の点で意見をくれたりして感謝しています。

そして、評価に参加していただいた皆様(順不同, 事前のアンケートにて掲載可と回答された方のみ表記)
ヤキソさん、You Aoiさん、まといちゃんさん、noneさん、MatoKuzumiさん、Techonorさん、はわわぁさん、風杜鈴音さん、905さん、水星魔王さん、ぼっちさん、かわしぃさん、みずほコリさん、るーしっどさん、sankenさん、RikiSoさん、yomox9(よも)さん、magumacさん、moheijiさん、runeさん、べるさん、Doll_Kohaku0589さん、Felisさん、桃介さん、ふじたウミウシさん、さとさん、Ryukiさん、白狼さん
かなり無茶な調査で至らない部分も多かったですが、ご協力いただきありがとうございました。
本当にうれしかったです!!!!!!

追記
バーチャル学会ではたくさんの議論をさせていただきました。お話してくださったみなさまもありがとうございました。
今後の検討に絶賛活かしていきたい所存です。

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